エピソード記録例〜Kちゃんのおしっこ〜

さて、本題です。
エピソード記述は
- 背景
- エピソード
- 考察
の3部構成で書かれることが多いです。
まずは私が描いたエピソード記録の例を見てみましょう。

保育士1年目の頃の記録なので、温かい目で見てください。
背景
私が保育士になり1年目の頃に担任していた2歳児のKちゃん。
緊張の強いKちゃんだが、私を好いていてくれて、生活場面では他の保育者ではなく私とやりたがることが多かった。
他の子がトイレトレーニングを完了させる中、緊張の強いKちゃんだけは中々トイレでおしっこをすることができなかった。
トイレに向かう姿は以前からあるが、トイレに座ること自体が緊張するらしく、すぐ「おしまい」と立ち上がってしまう。
排尿間隔が非常に長く、布パンツで過ごしていると午睡時や降園時など紙おむつに変えるタイミングまで我慢してしまう。
エピソード
ある日の、午睡前、いつものように他の子とともにトイレに向かうKちゃん。
他の子がおしっこし終わり、Kちゃんも座るが、すぐ「おしまい」といって便座から立とうとしてしまう。
布パンツで過ごしていて、失敗していなかったため、前回の排尿から間隔が長く空いていたことはわかっていた。
そのため、座っていれば出るのではないかと思い「先生一緒にいてあげるからもう少し座ってようか?」と声をかける。
すると、「うん」と少し不安気な顔をするが、そのまま座っている。
手をつなぎ安心できるよう色々声をかけて過ごしているうち、次第にもぞもぞし始めるKちゃん。
「もうおしまい」と言い始めるが、「もう少ししたら終わろうね」と粘る。
すると、ブルブル震え「もうおしまい〜」と泣き始める。
「もう少しで終わろうね、大丈夫だよ」と声をかけつつ、そろそろ限界かなと思っていると、泣きながらおしっこが出て「でたー!!」と本人も驚きの表情を浮かべる。
ついにトイレで成功したことをとても嬉しく思い「おしっこ出たね!!!」「すごいね!!よかったね!!」とたくさん褒めると安心して、涙を浮かべたまま泣き笑いの表情になった。
その後、トイレでおしっこすることに抵抗がなくなったKちゃんは、すぐに排泄自立した。
もともと排尿をコントロールすることはできていたため、一度成功すればあとはスムーズだった。
心なしかKちゃん自身、排泄が自立したことでとても自信がついたように見える。
考察
Kちゃんは排泄機能は整っているが、「あと一歩きっかけがなくてトイレでできないね。」と担任間で話し合っていた。
また、オムツに変えてからオムツですることが習慣化してしまっていたので、そこをなんとか変えたかった。
少し強引な方法となってしまったが、トイレでできるきっかけを作ることができてよかった。
普段からたくさんの時間を過ごし、安心できる関係を築いてきたからこそ、私が側にいたからこそトイレですることができたのではないかと思う。
Kちゃんの泣き笑いの顔を見た時、この仕事をやっていてよかったと心から感じることができた。

エピソード記録の例題どうだった?
描けそうかな?
この他にも私が実際の保育の中で経験したエピソードを載せておきます。
ブログ形式ですが、子どもを観察する際の参考にしてください。



エピソード記録の描き方
先程も少し触れましたが、エピソード記録は背景・エピソード・考察の3部構成で書かれることが多いです。
こう見ると、いかにも難しいですね。
一つずつわかりやすく見ていきましょう。
背景の描き方
背景は情報の補完です。
エピソード記録は誰が読んでもわかるように描く必要があります。
保護者や担任など、その子どもに近い人が読めばわかる内容でも、その子どもを知らない人が読むと伝わりづらくなってしまうエピソードもあります。
しかし、エピソードの中にその子どもの情報(年齢、家庭背景、この頃の育ち等)を全部入れ込んでしまうと読みづらくなってしまうのです。
そのため、その子どもの背景(情報)を事前に描いておいて、読み手にその子について簡単に知っておいてもらうのです。
描き方は箇条書きでも文章でも構いません。
また、その子についてのすべての情報を入れる必要はなく、エピソードを理解するために必要なことだけ描けば大丈夫です。
まずはエピソードを描いて、その後描ききれなかった情報を後で背景として描くのがいいでしょう。
ちなみに、必要なければ省略しても大丈夫ですよ。
エピソードの描き方
エピソードは、あなたの心が動いた場面を描きましょう。
子どもの行動を見て感動した、嬉しかった、悲しかった・・・保育していると印象に残る出来事があるはずです。
その出来事がなぜ印象に残ったのか考えてみてください。
ちょっと例を上げてみましょう。
こちらのページに例としてエピソード記述を載せておくので読んでみてください。
私が新人保育士の頃を思い出して描きました。
このエピソードで私の心が動いたのは、「Kちゃんがトイレでおしっこすることができた」という喜びです。
新人だった頃の私はとても深く感動したのを覚えています。
そんな風に日常の保育の中で、自分が強く何かを感じたときのことを思い出し、その場面を切り取って描いてみてください。
それを読み返し、時系列的にどこから描いたらいいのか?
背景として出しておいたほうがいい情報はなにか?(先程のエピソードではKちゃんはトイレトレーニング中だということ、緊張が強いことですね)
といったように必要な情報を足していけばエピソードの完成です。
描き始めは、そのエピソード記述の肝となる部分、つまり自分の心が動いた場面をまず描いてみるといいですよ。
その後、人に読まれるものとして、意識して肉付けしていけばいいのです。
考察の描き方
「考察」と字面を見るとすごくむずかしそうですが、要するに思ったことを描けばいいのです。
エピソード記述とは保育士の心を描き出す記録なので、考察は大切です。
自分がそのエピソードを通じて何を感じたのか、どう思ったのか、その子にどんな発達の願いを持っているのか・・・。
どんな切り口でもいいので、自分が感じたことをそのまま描いてください。
どうしても保育記録を書こうとすると、正解を書かなければいけないような気がしてしまいます。
プロとしてその子のその行動を分析しなくては・・と肩の力が入ってしまいます。
しかし、エピソード記述を描く目的は違います。
その場面で保育者が感じたことを読み手と共有することで、そこから話し合いが広がっていくことが目的なのです。
なので、考察で完結させる必要はありません。
自分の思ったことをありのままに描いてください。
先ほどのKちゃんのおしっこのエピソードでは、新人時代に感じたことを思い出し、嬉しかったことをそのまま描きました。
しかし、今こうしてこのエピソードを見れば、そこまで強引にする必要があったのか?もっとKちゃんの心に負担をかけない方法はなかったのか?と反省が頭をよぎります。
それでいいのです。
新人時代の私の未熟さをそのまま映し出しているのがエピソード記述なのです。
ありのままのあなたの感じたことを、考察として描いてみてください。
そうすることであなたの保育観が読み手に伝わり、話し合いへと広がっていくのです。
エピソード記録を描くときのポイント
さて、エピソード記録の描き方はおわかりいただけたでしょうか?
ここではエピソード記録を描く上での、押さえておくといいポイントを紹介します。
心が動いた場面を描く
これは繰り返しになりますが、保育の中で心が動いた時に描く事が重要です。
保育者の心が動いた時に描くエピソードは生き生きとして、その場面の子どもの心や、保育者の保育観をありありと描き出します。
逆に言えば、心が動かなければエピソード記録は描けません。
毎日の保育業務を流れ作業のように、心を殺してこなしてしまっている人には描けないでしょう。
日々の保育の中で、子どもが何を感じているのか、なぜその行動をするのか?子どもの心を探ろうとする視点を持つことで、自然とエピソード記録にしたい場面は見つかると思います。
メモを取ろう
当たり前の事のようですが、保育歴が長くなるほど日常をメモらなくなるものです。
しかし、人間は忘れていく生き物です。
よほどフレッシュな記憶力を持った人、または鮮烈な印象を残したできごとでなければすぐ忘れてしまいます。
しかし、実は保育の大切な部分は、すぐに忘れてしまうような、当たり前の日常のやり取りの中に隠れているのです。
その時にちょっと面白いと思ったこと、不思議に思ったことなど少しでも心が動いたことを簡単にメモしておいて、後でゆっくり考えてみると面白いエピソード記録が描けるでしょう。
「保育中メモする時間なんかない!!」
そんな方もいるかも知れません。
確かに、保育中はとても忙しくいちいち心に残ったこと全部を書きとめることは難しいです。
そこで私は、エピソードの主役となる子の名前・出来事を思い出せるキーワードだけをメモっています。
先程の例文で言えば、
「Kちゃん おしっこ 泣く」
と書いておけば、まず思い出せます。
この程度のメモならほんの数秒でできますよね。
そして、その日の午睡の時間にでもメモを見てもう少し文章にしておけば必ずエピソードは描けます。
こうして心に残ったことをメモる癖をつけると、おたより帳に書くショートエピソードも生き生きとしたものが書けますよ。
ありのままの姿を
どうしてもいいエピソードを、子どもが成長した姿を・・と考えてしまいます。
しかし、エピソード記録の真の目的はその場面を共有して話し合うことです。
そのためにはありのままの姿を描くことが大切です。
あなたの保育士として未熟な姿、子どもの好ましくない姿、保育環境として望ましくない状況。
そういったありのままを描き出すことで、その場面をきっかけに保育について話し合い、保育を改善することができるのです。
保護者に出すエピソード記録などは多少配慮する必要があるかもしれませんが、保育者が読む記録である場合は読み手に気を使わず、自分もカッコつけず、真実を描きましょう。
サボジローの保育エピソード
先程も少し触れましたが、私がこのブログの中で描いたエピソード記録を例としてあげておきます。
ブログ記事として描いたものなので、正式なエピソード記録の形式にはなっていませんが、心が動いた場面とはどんなものか参考にしてもらえればと思います。
もし参考にたくさんのエピソード記録を読みたいという方は、「保育のためのエピソード記述入門」という書籍をおすすめします。
実際の保育の中で描かれたエピソード記録を読みながら、エピソード記録の大切さがわかる内容になっているので、とても勉強になります。
ただし、エピソード記録を描けるようになるには、まず描いてみることが大切です。
例文をたくさん読むより、まず自分で描き出してみるほうがいいと思います。
あなたのここ最近の保育で心に残った場面はなんですか?
まずはそれを描き始めてみましょう。
まとめ
エピソード記録の描き方について解説してきました。
エピソード記録は子どもの心、そこに関わった保育者の心を映し出すものです。
保育の仕事で大切なことは、「子どもがこんなことをできるようになった」とか「こんな活動をした」ということではありません。
「毎日の何気ない日常をどう考え過ごしているか」「子どもたちはどう感じているか」そういった目に見えないことが大切なのです。
なぜなら、子どもは一人ひとり違うのだから。
レッジョアプローチという、子どもの自主性を大切にする教育法を確立した、ローリス・マラグッツィの詩を引用しておきます。
子ども達の100の言葉
子どもには百とおりある。
子どもには百のことば 百の手 百の考え 百の考え方 遊び方や話し方
百いつでも百の 聞き方 驚き方 愛し方 歌ったり 理解するのに 百の喜び
発見するのに 百の世界 発明するのに 百の世界 夢見るのに 百の世界がある。
子どもには 百のことばがある(それからもっともっともっと)
けれど九十九は奪われる。
学校や文化が 頭とからだをバラバラにする。
そして子どもにいう 手を使わずに考えなさい 頭を使わずにやりなさい
話さずに聞きなさい ふざけずに理解しなさい
愛したり驚いたりは 復活祭とクリスマスだけ。
そして子どもにいう 目の前にある世界を発見しなさい
そして百のうち 九十九を奪ってしまう。
そして子どもにいう 遊びと仕事 現実と空想 科学と想像 空と大地 道理と夢は一緒にはならないものだと。
つまり 百なんかないという。 子どもはいう でも、百はある。ローリス・マラグッツィ(田中 敬子 訳)
KODOMO EDU レッジョ・エミリア アプローチって何?② ”子供が100人いれば100通りの言葉がある”より引用
エピソード記録は忙しい保育の日常に流れていってしまう、子どもの心を描き出す記録です。
本当の意味で保育の質を高め、保育の仕事の大切さをわかってもらうためには、もっとエピソード記録を一般の保護者の方に読んでもらう機会があればいいのになと感じています。
最後までお読みいただきありがとうございました。
※今回本記事を書くにあたり、鯨岡 峻/鯨岡 和子著「保育のためのエピソード記述入門」を参考にさせていただきました。
たくさんの例題をもとに、本記事より一層踏み込んだ内容になっています。
よければぜひ手にとって見てください。
この記事を気に入った方におすすめの記事はこちらです。





















Twitterもやってます!今の子育ての最先端情報やおもしろ保育エピソードをつぶやいてます!