夏になり、蝉の声がたくさん聞こえるようになってきたある日のこと。
「今日はセミを捕まえる!」と張り切って、園庭の木の前で網を持って陣取っていたかなとくん(4歳)。
待ち伏せの甲斐あり、木下の方にたまたま止まったセミをゲット!!
大喜びで虫かごに入れて皆に見せています。
その後もずっとセミを持ち歩いて遊んでいましたが、友だちがバケツに水を入れているのを見て、自分もバケツがほしいと言いに来ます。
何に使うのかな?と思いましたが、バケツを渡してあげると「セミさんお風呂に入れてあげよっと♪」と嬉しそうにしています。
どうやらバケツに水を入れ、そこでセミをお風呂に入れてあげようと思ったようです。
そんなことをすればセミが死んでしまうのは明らかですし、少し迷いましたが何も言わず見守ることにしました。
嬉しそうに水道で水を入れているかなとくん。その様子にセミへのイタズラ心や、「どうなるかな?」という実験的な気持ちも全く見られません。
ただ、セミがかわいくて、お風呂に入れて気持ちよくしてあげようと思っているようです。
しばらく見守っていましたが、バケツの水にセミを泳がせたり、セミを沈めて全身を洗ったりしています。
当然少しずつ元気がなくなっていき、ついには瀕死の状態に。
あまりに弱々しくなってしまったセミの様子に、かなとくん自身”おかしいな”と思っているようですが、「やっぱりお風呂に入れるのはよくなかったんじゃない?セミさん死にそうだよ。」と声をかけても「違う、眠いだけだよ」と認めたくないようです。
良かれと思ってしたことですが、どうやらとんでもないことをしたのかもしれない・・・と感じ始めているようでした。
その後室内までセミを連れていき、給食が終わり、昼寝前にまたセミを見ていました。
ここでセミを放しても終わりにしてもいいかと思い、「セミさんやっぱり弱っちゃったみたいだし、外に逃がしてあげる?」と声をかけると、「一緒に寝る。」と頑なな様子。
そうしてセミを見ながら眠っていきました
昼寝起き、目が覚めてまず枕元においていたセミを確認しますが、もう触ってもほとんど動かず、今にも死にそうです。
そこでようやく自分がしてしまったことと向き合えたようで、悲しい顔をしてなにか考え込んでいました。
その後しばらく友だちと遊んだりしていましたが、少し経ってから「先生、セミさん逃してあげにいきたい。」と言いに来ました。
「そっか、もういいの?」と聞くと、「うん、お風呂に入れてごめんねってする。」と静かに言っていました。
一緒に園庭にセミを逃しに行くと、「セミさん埋めて天国に送っていい?」と聞きます。
かなとくんは以前も、まだ生きている死にかけの虫を「天国に送る」と言って埋めようとして、友だちと喧嘩になっていました。
彼の中ででき始めている死生観がまだ僕には理解できず迷いましたが、「まだ生きているから、埋めずに木に載せといてあげようか?死んじゃうと思うけど、まだ生きているからね。」と伝えると、「わかった。」と納得します。
木に近づくと、たまたま別のセミの死体を見つけました。
すると、その死体を拾い上げて死にかけのセミに捕まらせ、「友だちと一緒にする。そうしたら寂しくない」といっています。
ああ、なんと美しく純粋な、かなとくんの感性かと思いました。
大人にとってわかっているようで、わかっていないかもしれない生と死を、彼は目の前の小さな体験から全身で感じ取っているのです。
「こっちのセミは死んでるから埋めてあげよう、こっちのセミは生きているから木に捕まらせてあげようね。」と声をかけると、セミを木にとまらせます。
そして、「セミさん、お風呂に入れちゃってごめんね。」と目をつぶって言葉にしていました。
その後2人で死んでいた方のセミを木の根元に埋め、部屋に戻りました。
部屋に戻る途中、「もうセミをお風呂に入れない」とつぶやいていました。
セミにはかわいそうなことをしましたが、今日一日の中でかなとくんの心は大きく揺れ動く経験をしました。
かなとくんがお風呂に入れてあげると言い出した時に止めることもできました。
しかし、そうやって大人の”かわいそう”を押し付けられても、彼の心は動きません。ただ”ダメなこと”と刷り込まれるだけでしょう。
僕は保育の中で、子どもの間違いを敢えて見守ることがよくあります。自分で経験し、”しまった”と感じるからこそ実体験として学びになっていくことがたくさんあるからです。
命の学びも同じで、僕も幼少期たくさんの生き物を殺してしまって学んできました。
きっとそうした経験が言葉で教えられても伝わらない学びとなって、今の僕の死生観を作り上げているのだと思います。
今回小さな命を自分で失わせてしまったかなとくんは、目に見えないたくさんのことを経験したのではないかと思います。
その心震える経験を傍で見守ることができるこの仕事が、僕はやはり大好きです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
※このエピソードは僕が実際に保育園で経験したことをもとに書かれていますが、名前・場所・団体名等プライバシー保護の観点から変更しています。
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