愛着がしっかり形成されないと・・・。
人は、誰もがアタッチメント欲求を持って産まれてきます。
しかし、その欲求が満たされず、特定の人としっかり愛着が形成されないと、大人なってからの人間関係に大きく影響が出ると言われています。
また、先ほども説明したとおり、愛着の形成は生きる力の土台となります。
大好きな人との絆を心の中に持つことができないと、色々なことに興味を持って挑戦していくことができなくなってしまうのです。
愛着がしっかり形成されないと、その子の人生に大きく影響が出てしまうのですね。
他にも、ネグレクトを受けた子など極端に愛着形成がうまく行かなかった場合は、愛着障害という状態になってしまいます。
愛着障害になると、極端に人に触れることを拒絶したり、無気力になって人と交流しようとしないようになったり、反対に誰にでも無差別に愛着行動を求めたりするようになってしまいます。
私は学生時代、養護施設でボランティアをしていた時にこの愛着障害の子と接することがありました。
その子達は小学生でしたが、初めてあった私にもすぐに抱きつき、ベタベタと甘え、一見すると人懐っこい子にも見えました。
一方で、攻撃性が高く、すぐに怒って他人を傷つける面もありました。
やはり総合して見ると、異常な甘え方や攻撃性は学生だった私の目にも異常に移りました。
もちろん、愛着障害にまでなってしまう心配はよほどいりません。
しかし、私はその養護施設の経験の中で、愛着の形成がどれだけ人生にとって重要なのか実感しました。
愛着形成の4つのパターン
ここで愛着の形成についての有名な実験を紹介します。
別に覚える必要はありませんし、実践して見る必要もありませんが、愛着理論という考え方の中で有名な実験なので紹介しておきます。
心理学者のメアリー・エインズワースという方が確立した、ストレンジ・シチュエーション法という実験方法です。
方法は簡単で
- 赤ちゃんと母親が一つの部屋に入り、赤ちゃんが遊んでいるところから少し離れて母親は座る。
- そこに見知らぬ人が入ってくる。
- 見知らぬ人は1分間静かに座り、1分間お母さんと会話し、その後赤ちゃんと遊ぶ。
- お母さんが部屋から出ていく。
- お母さん再び部屋に入る。(お母さんと再会する)見知らぬ人は出ていく。
- お母さん再び部屋を出る。(赤ちゃん一人残される)
- 見知らぬ人が部屋に入り赤ちゃんをあやす。
- 見知らぬ人が出ていきお母さんが部屋に入る。(再びお母さんと再会)
上記のように実験は行われ、その時の赤ちゃんの反応から、その赤ちゃんの愛着行動を4つのパターンに分類するというものです。
文字で見てもわかりづらいので動画をどうぞ。
英語ですが何を言ってるかは気にしなくても大丈夫です。(実験方法を説明してます)
黒い服の人がお母さん、柄のある服を着ている人が見知らぬ人です。
さて、この実験で行動のタイプを4つに分類できます。
安定型
お母さんがいなくなると素直に泣き、再会すると思う存分甘えるのが安定型です。
日頃のお母さんの関わり方としては、態度に一貫性があり赤ちゃんの欲求によく答えてくれます。
回避型
お母さんがいなくなってもあまり泣いたりせず、再会しても素直に甘えたりはしないのが、回避型です。
日頃のお赤さんの関わりとしては、あまり赤ちゃんに関心を示してくれず、愛着行動を求めても応えてくれないことが多いです。
そのため赤ちゃんはお母さんに求めすぎず、最低限側にいられるように、鬱陶しがられないよう愛着欲求を制限します。
アンビバレント(両面)型
お母さんがいなくなるときには激しく泣きますが、再会時には甘えながらもいなくなったことへの怒りをぶつけたりします。
日頃のお母さんの関わりとしては、赤ちゃんの愛着欲求をしっかり受け止めてくれる時と、そうでない時の差があり、一貫性がありません。要するに気まぐれです。
そのため、赤ちゃんは安心できずお母さんの動向に敏感で、必要以上に泣いたり甘えたりしてくっつこうとします。
無秩序・無方向型
赤ちゃんの行動が、上記3つのどれにも当てはまらないような、一貫性のない行動をします。
泣いたり、泣かなかったり、お母さんを怖がって見知らぬ人に親しげにしたりと、行動が読み取りづらいです。
日頃のお母さんの関わりとしては、赤ちゃんの安全基地としての役目を果たしていません。むしろ、反対に赤ちゃんを怖がらせる、不安にさせるなどの行動が多いです。虐待やネグレクトが疑われます。
本来は安全基地であるはずのお母さんが恐怖の対象であるため、赤ちゃんは不安になってもお母さんに近づくことができず、第三者から見て不思議な行動をします。
さて、愛着行動の4つのパターンを見てきました。
しかし、この分類事態は国によって文化差があったりもしますのそんなに気にすることはありません。
ではなぜ紹介したかといえば、この実験を通して、どういう風に赤ちゃんに接すればしっかりとした愛着形成ができるかがわかるからです。
次の章では、どのようにすれば赤ちゃんにとってもっといい安全基地になれるのか説明していきます。
しっかりした愛着を形成するには?

ある意味ここがいちばん大切なところですね。
赤ちゃんとの間にしっかりとした愛着を形成し、赤ちゃんがいつでも安心できる素晴らしい安全基地になるにはどうすればいいのでしょう?
順番に説明していきます。
敏感性と一貫性が大切
先ほどのエインズワースの実験からわかるのは、愛着の形成にはお母さんの敏感性と一貫性が大切ということです。
何やら難しい言葉が出てきました。
- 敏感性・・・赤ちゃんの気持ちを敏感にキャッチして、必要なお世話をしてあげることです。つまり、赤ちゃんをよく見ているということですね。
- 一貫性・・・赤ちゃんへの態度が常に安定しているということです。赤ちゃんに優しくしたり、無視したりと気まぐれではないということです。
しっかりとした愛着を形成するには、赤ちゃんをよく見て、いつもしてほしい時にしてほしいお世話をしっかりしてあげることが大切なのですね。
当たり前の事のようで、忙しい現代では意外と難しいものです。
特に天敵はスマホです。
現代人はほとんどの人がスマホ依存症。ちょっと暇があると用がなくてもスマホを開いてしまいませんか?
赤ちゃんがわかりやすく泣いてくれる時はスマホを見ていても気づくでしょうが、小さなサインを出しているときもあります。
小さな赤ちゃんを見ているのって意外と退屈してしまいそうですが、一生のうちで今だけしかない大切な時間です。
せめて授乳するときだけでも赤ちゃんの顔をじーっと見て、心を通わせてくださいね。
情動的利用可能性も大切!
また難しい言葉出てきました。
「情動的利用可能性」なんて聞いたことありませんよね。
「情動的利用可能性」とは、「敏感性」から「侵害性」(=子どもの自律的な行動を侵害する度合い)を差し引いた概念ということができる。
アタッチメント(愛着)理論から考える保育所保育のあり方,初塚眞喜子,2010
先ほど、敏感性が高いほうがいいといいましたが、高すぎてもよくないよということです。
敏感性が高いほど赤ちゃんの変化をすぐキャッチできますが、逆に過保護にもなってしまいます。
赤ちゃんが自分で興味を持ってやろうとしていることを、先回りして母親がやってしまうのは赤ちゃんの自立によくないですよね?
情動的利用可能性とは、「安全基地となる人は、赤ちゃんが不安になった時だけ安心を与えてあげる存在でいい。」ということ。
もっといえば、赤ちゃんの心の安定に利用される存在でいいのです。
何より大切なのはスキンシップ!
愛着行動とは不安な時に他者にくっつくことで安心しようとする行動でしたね。
そうです、赤ちゃんとくっつくことが大切なんです。
つまり、愛着の形成にはスキンシップが欠かせないのです。
動物は不思議なもので、触覚から安心感を得ることができます。
愛着に関する興味深い実験があるので紹介しておきます。
※現代ならば倫理的に許されない、正直気分が悪くなる実験です。ご注意ください。
1950年代、「赤ちゃんとお母さんは授乳の関係で結びついており、愛情は必要ないのだ」と一般的に考えられていました。
しかし、動物学者のハリー・ハーロウは赤ちゃんに必要なのは愛情であると考え、産まれたばかりのアカゲザルの赤ちゃんを母親から引き離し、代理母を与えて育てます。
一つは針金でできているが、哺乳瓶がついていてミルクを飲むことができる猿の人形。
もう一つは温かい毛布でできているが、ミルクは出ない猿の人形。
すると、猿の赤ちゃんはお腹の空いたときだけ針金の人形のところでミルクを飲み、ほとんどの時間を温かい毛布でできた人形にしがみついて過ごしたというのです。
イメージを掴むために動画を載せておきます。(英語ですので、あくまで人形のイメージを掴むために)
この実験結果から、赤ちゃんが育つには接触による心地よさ、つまりスキンシップが何より重要だとハーロウは考えました。
ちなみに、この猿たちは成長すると仲間とうまく付き合えなかったり、自傷行為をしたりと正常には発達しなかったようです。
やはり、動かない人形に育てられては正常には育ちませんよね・・・。
しかし、この実験でハーロウが証明しようとした、成長には愛情が不可欠という考え方は現代の子育ての基盤になっています。
猿にとっては気の毒なひどい実験ですが、ハーロウが世の中に示そうとしたことは大きな意味があったと思います。
長くなってしまいましたが、愛着を形成するにはスキンシップが重要だということはおわかりいただけたでしょうか?
スキンシップの大切さについては更に詳しくこちらの記事でも書いてます。

子どもの安全基地になろう
前半でも触れましたが、子どもの中にしっかりとした愛着を形成するためには、安全基地の存在がとても重要です。
先ほどの4つの愛着パターンでも登場した、メアリー・エインズワースが提唱した考え方です。
下記引用を見てください。
子どもは、アタッチメント対象である養育者を「安全基地(secure base)」(=自分にとって安全や安心感を得られる活動の拠点)として利用していることになる。
アタッチメント(愛着)理論から考える保育所保育のあり方,初塚眞喜子,2010
これはわかりやすいですね。
安全基地とは赤ちゃんがホッとして安心できる人ということです。
赤ちゃんとの愛着が形成されていくと、お母さんは、まず物理的安全基地になります。
お母さんに触れることで、側にいることで安心できるのです。
そして更に愛着形成が進むと、心理的安全基地へとなっていきます。
心理的安全基地になると、お母さんが側にいなくても、心の中に大好きなお母さんを思い浮かべることができ、”自分は大丈夫”と世界を探索していけるのです。
お母さんも、お父さんも、保育園の先生も、子どもの側にいる人は皆この安全基地を目指してほしいと思います。
その人がいるから安心できる。
その人が自分を大好きだと知っているから、自分を大好きになれる。
その人がわかってくれるから、色々なことに挑戦していける。
だから自分は大丈夫。
しっかりとした愛着が形成され、安全基地を心の中に持っている子はそんな風に力強く人生を生き抜いていくことができます。
ぜひ、安全基地になってあげてくださいね。
安全基地についてはこちらの記事でより詳しく解説しています。

まとめ
今回は愛着形成について解説してきました。
簡単に説明しようと思いましたが、8000文字を超えるボリュームのある記事となってしまいました。
そのくらい、私にとって子育ての中で愛着の形成は重要なのです。
「人間は生まれながらにトラウマを抱えている」というバーストラウマについて本文中で触れました。
バーストラウマ自体はあくまで心理学の考え方の一つですが、私はとても好きな考え方です。
人間は生まれた時から、この広い世界で生きていくことに不安を抱えているのだと、だからこそ愛されなければ生きていけないのだと言います。
世の中で、生まれた時から一人で誰にも頼らず生きて、幸せになった人はいないでしょう。
幸せな人は必ず人生のどこかで、誰かから大きな愛情をもらっています。
その人が安全基地となって今も心に残っていることでしょう。
あなたも赤ちゃんと深く関わることがあるのなら、ぜひその赤ちゃんの安全基地となってその子の人生を幸せにしてあげてほしいと思います。
最後まで読んでいただいた方、本当にありがとうございます。
※参考文献:「アタッチメント(愛着)理論から考える保育所保育のあり方,初塚眞喜子,2010」
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